「マレーシア留学は安いけれど、学位のブランドで負けるのでは」——保護者からいちばん多く出る不安です。
この不安には、制度上の答えがあります。マレーシアには、現地で学びながらイギリスやオーストラリアの大学の学位を取得できる仕組みが整っています。ツイニング(twinning)とダブルディグリー(dual award)と呼ばれる制度で、マレーシアの高等教育の中核をなす仕組みです。
実際の数字で言うと、ノッティンガム大学の場合、イギリス本校で学ぶと年間£24,700〜33,000(約516〜690万円)、マレーシア校舎なら年間RM57,000〜67,000(約216〜254万円)。同じ大学の同じ学位で、費用は3分の1から半分以下になります。
この記事では、混同されやすい3つの仕組み(ツイニング/ダブルディグリー/ブランチキャンパス)の違いを整理し、実際の提携プログラムと費用差、そして選ぶ前に確認すべき点を解説します。
※本記事の数値は2026年9月時点で各大学が公表している内容です。為替は1RM=38円、1ポンド=209円で換算しています。
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まず、3つの仕組みを区別する
「マレーシアで英国の学位が取れる」と一括りに語られますが、中身は3種類あり、最終的に手にする学位が違います。ここを最初に分けておかないと、大学選びの判断ができません。
| 仕組み | 学ぶ場所 | 取得する学位 | 代表例 |
|---|---|---|---|
| ブランチキャンパス | その大学のマレーシア校舎 | 本校とまったく同じ学位(1枚) | ノッティンガム大学マレーシア校、モナッシュ大学マレーシア校 |
| ダブルディグリー | マレーシアの大学 | マレーシア校+提携校の2つの学位 | サンウェイ大学×ランカスター大学 |
| ツイニング(3+0/2+1/1+2) | マレーシア+(一部は現地) | 提携校の学位(1枚) | INTI×ハートフォードシャー大学 |
ブランチキャンパス=「同じ大学の別の校舎」
ノッティンガム大学マレーシア校やモナッシュ大学マレーシア校は、提携先ではなくその大学自身の海外校舎です。カリキュラムも学位の授与元も本校と同一。学位記に別の大学名が入ることはありません。
いちばん分かりやすく、いちばん学費が高い選択肢です。とはいえ、後述するとおり本国で学ぶ場合と比べれば大幅に安く済みます。
ダブルディグリー=「学位記が2枚出る」
マレーシアの大学と海外の大学が共同で運営し、修了すると両方の大学の学位記が発行される方式です。マレーシア国内の大学と、提携先の海外大学、その両方の卒業生になります。
ツイニング=「学ぶ場所を分ける」
ツイニングは、学位のカリキュラムをマレーシアと提携国とで分割して履修する制度です。数字の組み合わせで表記されます。
- 3+0:3年間すべてマレーシアで学び、提携校の学位を取得(現地渡航なし)
- 2+1:2年をマレーシア、最終1年を提携国で学ぶ
- 1+2:1年をマレーシア、残り2年を提携国で学ぶ
費用を抑えたいなら3+0、現地経験を重視するなら1+2、というように予算と経験のバランスを自分で選べるのがこの制度の本質です。
実例1:サンウェイ大学 × ランカスター大学(ダブルディグリー)
マレーシアで最も規模の大きい提携の一つが、サンウェイ大学とイギリスのランカスター大学の組み合わせです。
20年続く提携、45プログラム
両校の提携は2006年に始まり、2026年で20年を迎えました。現在は学部・大学院あわせて45のプログラムに学生が在籍しており、世界でも最大規模の国際教育提携の一つとされています。
ランカスター大学は、サンウェイ大学のキャンパスで教えられる学位プログラムについて、修了後に2枚の学位記が発行され、学生は両大学の卒業生になると公表しています。マレーシアで4年ではなく3年(英国式)学び、サンウェイ大学とランカスター大学の両方の学位を得る形です。
途中でイギリスに行くこともできる
この提携で見落とされがちなのが、イギリス本校で学ぶオプションが正式に用意されている点です。
- 1学期の留学:2年次に、9月下旬から12月までランカスター本校で学べます。申請は毎年3月から5月。交換留学枠の学生はサンウェイに通常の学費を払うだけで済み、Global Mobility Scholarshipの対象になればその学期の学費が100%免除されます
- 本校への編入:1年次修了時にCGPA 3.0以上を取れば、ランカスター本校に編入して残り2年で卒業できます。この場合の学位はランカスター大学のもののみになります
編入する場合、ダブルディグリーの学生はランカスターの英語要件が免除されます。さらにUCAS(イギリスの共通出願システム)を通した志望理由書や推薦状の提出も不要で、国際学生向け学費から毎年20%の割引が適用されます。
対象は30以上のプログラムで、経営・会計・金融といったビジネス系から、コンピュータサイエンス、機械・化学工学、心理学、バイオメディカル、建築・デザイン系まで広くカバーされています。
つまりこの制度は、「マレーシアで安く3年」と「イギリスで学ぶ経験」の間で、入学後に選び直せる設計になっています。高校生の段階で英語力や資金計画が固まりきらない人にとって、この可変性は大きな利点です。
実例2:INTI × ハートフォードシャー大学(ツイニング)
ツイニングの代表例が、INTI International Universityとイギリスのハートフォードシャー大学の提携です。
両校の関係は1999年から続いており、INTIはハートフォードシャー大学にとって最初のInternational Associate College(国際提携カレッジ)という位置づけです。会計、経営学、金融、マーケティングなどの分野で3+0の学位プログラムを提供しています。
INTIでは3+0・2+1・1+2の3つの履修パターンが選べ、提携校のプログラムには「Franchise Award(フランチャイズ型)」と「Dual Award(ダブルアワード型)」の2種類があります。どちらの型かによって、卒業時に受け取る学位記の枚数が変わります。出願前に必ず確認すべき点です。
提携の種類まで踏み込んで、大学を比較します
同じ「英国の学位が取れる」でも中身は違います。志望分野に合わせて整理してお伝えします。
費用はどれだけ変わるのか
いちばん説得力があるのは、同じ大学の本校とマレーシア校舎を並べる方法です。ノッティンガム大学の2026年度・留学生向け学費で比較します。
| 専攻 | イギリス本校(年額) | マレーシア校舎(年額) | 年間の差 |
|---|---|---|---|
| ビジネス・経営 | £24,700(約516万円) | RM57,000(約216万円) | 約300万円 |
| コンピュータサイエンス | £33,000(約690万円) | RM57,000(約216万円) | 約474万円 |
| 機械工学 | £33,000(約690万円) | RM67,000(約254万円) | 約436万円 |
3年間で計算すると、ビジネス系で約900万円、コンピュータサイエンスで約1,400万円の差になります。学位はどちらもノッティンガム大学のものです。
ここに生活費の差が加わります。マレーシアの生活費はイギリスやオーストラリアの半分以下が一般的なので、実際の総額差はさらに開きます。
注意点を2つ。1つは、2025年7月1日から留学生(非マレーシア国籍)には6%のSST(売上サービス税)が課されること。RM57,000なら約RM60,400になります。もう1つは、ノッティンガム大学マレーシア校は入学年の学費が在学中固定されるとしていますが、イギリス校・中国校への移籍や2+2プログラムはこの固定の対象外だという点です。ツイニングで途中から本国に移る計画なら、移籍後の学費は別途確認が必要です。
マレーシアを「妥協案」にしないための考え方
ここまでの内容を一言でまとめると、マレーシアのツイニング/ダブルディグリーは「費用は最安、学位は西側」という組み合わせを成立させる制度だということです。
この構造は、アメリカのコミュニティカレッジからカリフォルニア大学へ編入するルートとまったく同じ論理です。前半を安い場所で学び、学位は目的の大学から受け取る。学位の価値を落とさずに、払う総額だけを下げるという考え方です。
したがって、マレーシアは「欧米に届かない人の代替」ではありません。同じ学位を、より低い費用で取りに行くルートです。この順序で理解すると、大学選びの基準が変わります。
行き先は英・豪だけではない:アメリカ編入という選択肢
ツイニングの話は英国・豪州に偏りがちですが、マレーシアからアメリカの大学に編入するプログラムも確立されています。ADTP(American Degree Transfer Program)と呼ばれる仕組みです。
サンウェイ大学のADTPは、国際的に認証された学位の前半部分をマレーシアで修了し、そのうえでアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの大学に編入して学位を完成させるルートとして提供されています。テイラーズ大学のADPも、アメリカの一般教養科目の大部分をマレーシアで履修できるように設計されています。
多くの学生はおよそ60単位をマレーシアで修得してから渡米しますが、1〜2年のどこで移るかは選べる設計です。
受け入れ側にも実績があります。アイオワ州立大学は、INTI、メソジスト・カレッジ・クアラルンプール、サンウェイ大学、テイラーズ大学から編入して入学許可を得た留学生に対し、年間4,000ドルの奨学金を自動付与すると公表しています。マレーシア側のプログラムが、アメリカの大学に制度として認知されているということです。
この構造は、アメリカのコミュニティカレッジからカリフォルニア大学へ編入するルートと発想がまったく同じです。違いは前半を過ごす国だけ。「前半を安く、学位は目的の大学から」という同じ論理が、マレーシア経由でも成立します。アメリカの編入ルートそのものについてはUCLA・UCバークレー編入におすすめのコミュニティカレッジと選び方のポイントで解説しています。
3+0・2+1・1+2、どれを選ぶか
ツイニングを選ぶ段階で必ず迷うのがこの3択です。判断材料を整理します。
| 3+0 | 2+1 | 1+2 | |
|---|---|---|---|
| 費用 | 最も安い | 中間 | 最も高い |
| 現地生活の経験 | なし | 1年 | 2年 |
| 英語力の要求 | 比較的低い | 移籍時に基準あり | 早い段階で高い水準が必要 |
| 学位の授与元 | 提携校 | 提携校 | 提携校 |
| 計画の柔軟性 | 高い(途中で上げられる場合がある) | 中 | 低い(最初から資金が必要) |
判断の順番としては、次のように考えると整理しやすくなります。
- 総予算の上限を先に決める。ここが決まらないと比較の意味がありません
- 現地経験を「学位の一部」と見るか「オプション」と見るかを決める。就職で海外生活の経験を語りたいなら2+1以上が有利です
- 入学後に上げられる制度があるかを確認する。サンウェイ×ランカスターのように、1学期だけの留学や1年次修了後の編入が用意されている場合、3+0で入学しておいて途中から上げるという選択が取れます
3つ目が実務上いちばん重要です。高校生の段階で3年後の資金と英語力を確定させるのは無理があります。入学後に選び直せる制度を持つ大学を選んでおけば、その不確実性を吸収できます。
就職・大学院進学でどう扱われるか
「現地に行っていない学位は評価されるのか」という質問について、事実関係を整理します。
まず前提として、学位の授与元はあくまで提携校(英国・豪州の大学)です。ブランチキャンパスの場合は本校とまったく同じ学位で、区別されません。
そのうえで、確認しておくべき点が2つあります。1つは認証。マレーシア側はMQA、イギリス側はQAAが質保証を担っており、認証を受けたプログラムであることが前提になります。もう1つは学位記・成績証明書の記載で、学習地の情報が入るかどうかは大学や国によって扱いが異なります。
日本で就職・進学の際に学歴を証明する場面を想定するなら、この2点を出願前に大学へ直接確認しておくのが最も確実です。「たぶん大丈夫」で進めず、書面で確認してください。
選ぶ前に必ず確認すべき5点
1. 学位記が何枚、どこから出るのか
最重要の確認事項です。ブランチキャンパスなら1枚(本校名)、ダブルディグリーなら2枚、ツイニングは提携の型によって変わります。パンフレットの「英国の学位が取得できる」という表現だけでは判断できません。募集要項で授与機関を確認してください。
2. 3+0で学位記の記載がどうなるか
3+0は現地に一度も行かずに提携校の学位を取る方式です。学位記や成績証明書に学習地の記載が入るかどうかは大学・国によって扱いが異なります。日本で学歴を証明する場面を想定するなら、出願前に大学へ直接確認しておくべき項目です。
3. 途中で本国に移れる条件
2+1や1+2を検討する場合、移籍の条件(GPA・英語スコア・追加費用)を先に確認します。サンウェイ×ランカスターの例のようにCGPA 3.0以上といった明確な基準があることが多く、これに届かないと計画が崩れます。
4. 認証(アクレディテーション)
マレーシア側はMQA(マレーシア資格機構)、イギリス側はQAA(品質保証機構)が質保証を担っています。提携プログラムが両国の認証を受けているかは、卒業後の進学・就職で効いてきます。
5. 卒業後にどこで働くか
現地就職、日本での就活、大学院進学のどれを想定するかで最適解が変わります。日本での就活を主戦場にするなら、日本側で知名度のある大学名が学位に入るかどうかは無視できません。逆に大学院進学なら、認証と成績のほうが重要になります。
まとめ
- マレーシアにはブランチキャンパス/ダブルディグリー/ツイニングの3つの仕組みがあり、取得する学位が違う
- ツイニングは3+0・2+1・1+2で、費用と現地経験のバランスを自分で選べる
- サンウェイ大学×ランカスター大学は2006年から20年・45プログラムの規模。修了時に2枚の学位記。1年次修了時にCGPA 3.0以上で英国本校へ編入する道もあり、その際は英語要件免除・学費20%割引
- INTI×ハートフォードシャー大学は1999年からの提携で3+0・2+1・1+2に対応。Franchise AwardとDual Awardで学位記の扱いが変わる
- 費用差は同じノッティンガム大学で年間300〜474万円、3年で900〜1,400万円
- 留学生には6%のSSTが加算される。学費固定の対象外になるケースにも注意
マレーシアのツイニングは、制度としては非常に合理的です。ただし「どの型か」を確認しないまま入学すると、想定と違う学位を受け取ることになります。パンフレットの一文ではなく、募集要項の授与機関の記載まで確認したうえで決めてください。
出願に必要な成績・英語力の水準はマレーシア大学の入学方法について、費用の全体像はマレーシア大学への留学費用について徹底解説もあわせてご覧ください。
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